1-3−1
トムヤム君から飛び降りたのは、なんとあなただった。
君に飛び降りを決心させた最大の理由の1つは、会話も
ISOの並平ネジも全くかみあわなかったためである。
それはあたかも1/4インチネジと6ミリネジを間違えて無理矢理
ねじこんだために山を潰して使い物にならなくなったぶかぶかの穴を持つ
写真機を、嫌よ嫌よも好きのうちと言わんばかりの大仰な態度で
しかも絡め手から無理矢理に三脚に縛りつけて30分露出の人物写真を、
いやぁ、なんと言っても江戸時代ですのでそう簡単には写真は撮れないんです、ええ、
まぁそこはそれをなんとかして撮ってやろうという当時の俗物学者の意気込みが
如実に現われたような、そんな趣のカラクリに、
ほとほと嫌気がさしたかのようであったとも言える。
あ、ここ、操作手引書に書いてありましたね。最後から3ページ目。
嫌気がさした場合は飛び降りる前に係員に連絡をしてください、だってさ。
そんで、ほら次のページ見てみ。飛び降りた場合は保証範囲外になります、だって。
全く勉強もせずにニュータイプなんて読んでるからだよ。
いいかね、君。そもそも操作手引書なんてものはだな、
スイカの種一粒が海に落ちやがて長い時間をかけてじっくり川を遡って
やがて大きな実を結ぶ、そう。それが正に操作手引書というものの真実なんだよ。
君は字面しか見ていないんだ。まぁ仕方のないことかもしれないな。
まだ君は若いんだ。いずれ時がゆけば幼い君も大人になり
そして気付くだろう、操作手引書の意義という意味を。
若さ故の焚書、いかりに任せた坑儒。その味わいがまったりとした
鉄の味になったことに気付く日がきっと来る。
そうだ。覚えているかい、文化大革命を。
あの壊れそうな日が記憶の中で淡いセピア細工になる、
そんな夕暮れも長い人生の中できっと来るんだ。
だから、いいかい。人生をあきらめちゃいけないよ。
わかったか、そうか。わかったな、
わかったらよし、死ね。
とまぁ、そうこうしているうちにも父と子の会話は続いていた。
話の筋をつかみきれていない人のために老婆が親切に解説する
「よいか、若いの。現在までに入った情報によると、
現場では5人の人物が無事発見されておる。メモの準備はいいかな?
一人はおみっちゃん。この湯田屋の看板娘じゃ。年齢は不詳。無職。
身長は体重の立方根に五の平方根を乗じたものに等しい。
(訳者注:作者はメートル法でここを書いてあったが、時代背景を考慮して
尺貫法に改め、係数も再計算を行なった。読者も各自証明を試みよ)
二人めは敗残兵こと落ち武者。昔まだ徳川家康が木下藤吉朗だった頃、
山梨の上九一色村で怪しい宗教がはやった。そこへいけばどんな夢も
叶うという。その宗教に対して一人の男が立ち上がった。
その名も月影。隻眼の落ち芸者。それが何の因果か落ちぶれて
異土の乞食となりぬれて、今じゃ末法の手先・・・。
だがなぁ、ゲイに溺れて身を滅ぼす、そこまで魂は薄汚れちゃあいねぇぜ!
そんなわけでシンボルマークは桜だったか梅だったかのぉ。おぅおぅおぅ
三人目はその息子。芸人じゃ。得意な獲物は逃がさない。
長い柄の先端に鋭い刃物のようなもののついた猿を集団で襲い連れておったが、
俄にして乏し。羅生門の上で髪を洗う毎日じゃ。煙草の煙を落すため。
朝にごみ掃き捨てるため・・・。いたわしや、いとおしや。
ではそんな現場と中継が繋がっているようですので、
一旦ここで、現場にマイクを移します。それでいいかい、マイク?
OK、モチロンさボブ。
・・・
・・・
どうも中継がなってないようです。おっと音声は繋がりました」
「お義父さん、どうです、今夜いっぱいやりませんか?」
「そうだ、そこでパンチだ!わしのトムヤム君は無敵だ!」
「無理だよ!できるわけないよ!」
「ちがうのだ。ここは都の東北なのだ。これでいいのだ」
以上のように「ネジも会話も全くかみあっていない」
という予言がこのように成就されたである。
「それではここで、一旦CMです」
BGM入る。
アイキャッチ
左から侍の大写しが後ろ姿で入る。
カメラが侍の後ろを時計回りにまわりながらすこしづつ引いていく。
侍の姿は段々小さくなりながら右に向かい、こちらに左の横顔が見える。
なんと、その侍の顔は君とそっくりだ。
君そっくりの侍は君が驚いたのに気づいたかのようにいきなり
左手で刀を抜くと、エイと、気合一閃。カメラに向かって斬りつける。
刃が迫る。逃げられない。画面一杯刃が写って、
左下に字幕、
「水曜特番、夏だ一番、さらば宇宙の侍ジャイアン」と書いてある。
CMはD9の公共性を考え自粛。
アイキャッチが逆に回る。間抜け。そして左から消える侍。
ちなみにBGMは、ぱーぱーぱっぱぱっぱーぱぱっ。です。
mod とか avi 作ってくれていいよ。いやいやマジで。
解説はCMの間も続いていたようですね。
「そして、
最後がお主じゃ。
お主は侍であり主人公であり、この世界を救う救世主じゃ。
メシアじゃ。八幡じゃ、いや、大国じゃ。主は。
いや、しかも最初にお主があったのじゃ。
つまり、お主はαでありωである。
お主を信じよ、お主をあがめよ。
お主は偉大なり。お主の恵みに幸いあれ。
お主は来ませり、お主は来ませり、
お主はぁ〜、お主は来ませり〜〜
ぜいぜいぜいはぁはぁはぁ」
「ばあさん。一言言っておくが、口さがないと肌が荒れるぜ」
ニヒルな台詞を残して落ち武者は去っていった。
BGMは「春の海」である。まったくひねもす季節外れな奴だ。
辺りを見回して、はっと君は気がついた。
「しかし・・・四人目は一体誰なんだ・・・?」
君は呆然と立ち尽くしているんだかなんだかよくわからない
巨大ロボット、トムヤムをみつめながら、
今後の展開に頭を痛めているのであった。
「大丈夫、私はどこまでも一緒についていくわ」
おみっちゃんが店の中から番茶を湯飲みに入れて三人前持ってくる。
「まったくノン気なものだわ」
ゲイがつぶやいた。
そういえば、ばあさんは去られている。
きっとマリア文殊の化身だったのだろう。
がんばれ南無阿弥陀仏。動燃なんて気にするな。
さて、まずはどこへ向かおうか?
柴又で産湯につかる
巣鴨で言葉のトゲを抜く
目黒に帰省する