サウンドノベルもどきもどき
まえがきにかえて

本作品はD9プロジェクトの一環として、ある朝はじめました。
この増大する物語は一部の方の支持を頂き、現在も続いています。
成長する物語をお楽しみ頂ければ幸いです。

本文。

大場久太郎は代々水戸藩に仕える武士の三男坊であった。 江戸の東北に位置する南千住の大黒屋の二階に下宿し、 用心坊などをしては生活を立てていた。 大黒屋は湯田の卸問屋である。 大店とは言えないが堅実な商いには定評があるらしく、 大名や公家の間にも得意先を持つと久太郎は聞いていた。 大黒屋の五代目当主にあたる光左衛門は、 一昨年長年連れ添った妻に先立たれてからは、 店を番頭の長七郎に任せて隠居し、毎日碁敵と石を打つ毎日である。 行く行くは一人娘であるみつを嫁がせて店を継がせる事を考えているらしい。 そのみつは数えで十八。 真面目だけがとりえでどことなくぱっとしない長七郎には見向きもせず、 「久さん、久さん」と、何かにつけ久太郎に声をかけては、 兄妹のように慕っていた。

そんなある日の朝のことである。 いつものように海苔と味噌汁と25杯の飯を平らげた久太郎が ゆっくりと腰をあげ、ぶらぶらと散歩にでかけようとすると、 みつが一通の手紙を持って走ってくる。
「久さん、こんなものが・・・」
裏を返すと差出の名はない。 脇先を抜き器用に封を切ると中には繊細な文字でこう印されていた。
「今日は仏滅です」
久太郎は暫し言葉を失った。これは一体何の冗談なのだろうか? ふと、手紙から漂う芳香に気が付いた久太郎は、もしや、と思い、 手紙を火にかざしてみた。すると仏滅の文字の向こうにうっすらと 不動明王の絵が炙り出された。久太郎の顔から血が引いていった。 不思議そうに見つめるみつに向かって、久太郎はこう言った。

  • 「この手紙・・・水戸に伝わる秘文書だ」
  • 「ここは危険だ。おみっちゃん、逃げよう」
  • 「字余り」